VISIONの文脈

ONE VISION , BIG FUTURE

横浜DeNAベイスターズがたった5年で「ブランド」となり得た理由

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“なりたい自分”を描くことからブランドは始まる

“マーケティングにおいて、コミュニケーションにおいて、経営において、そのすべての土台となり基軸となるものは、「なりたい自分」があるかどうかだと私は考えています。自分(会社)はどんなブランドになりたいのか。そうなるためには、どんなことをすべきなのか。それさえ描けていれば、発信するメッセージや広告のビジュアルや実施するイベントは一本の筋が通ったものになるはずです。”

 

“自分(会社)に備わっている実力を熟知し、世の中と顧客にどう認識されたいか。常にしっかりとした意志を持っていなければ、ブランドになんて絶対なれません。”

 

かつては閑古鳥が泣くほどガラガラだった球場は連日満員、チケットはプレミアム化するほどで、入手困難になることもしばしば。2011年には年間110万人だった来場者数は、2015年には181万人、51億円だった売上高は93億円にまで上昇した。

空気のつくり方の著者は住友商事、博報堂を経てDeNAに入社し、2011年の球団買収と同時に「横浜DeNAベイスターズ」代表取締役社長に就任した、池田純氏。本書からゼロから「ブランド」をつくるための学びを得ることができる。



ベイスターズ流ブランディングのポイント

  1. ブランドは「顧客の心」が認識するもの
  2. ブランドではなく「ストーリー」をつくる
  3. 想いをカタチにする「コミュニケーション戦略」 

 

1.ブランドは「顧客の心」が認識するもの

著書は本書の中で、ブランドは「つくることはできない」と断言している。自社でできることは、あくまで「ブランディング」という作業をし続けること。ブランドと認識するのは、あくまで”顧客の心”であり、ブランドは「なれるか・なれないか」ものと考えるべきで、こちらが意図してできるものではないと述べている。

ベイスターズの場合、著者は「経営のしっかりした、革新的・挑戦的で、カッコいい球団」にしたい、そんなブランドになりたいという思いで、あらゆる施策を実施。そうした“なりたいベイスターズ像”を目指して、横浜という街が持つハイセンスなイメージに合うように、広告やロゴやスタジアムのあり方など、すべてのデザインにこだわり、想いを具現化していったという。

その一つの例として本書で挙げられているのが、横浜スタジアムの外にある「+B(プラス・ビー)」というライフスタイルショップ。店頭で提供されるコーヒーは、ポールパーク(球場)でコーヒーを飲む雰囲気を存分に楽しめるだけでなく、純粋にコーヒーとしても「おいしい」と感じてもらえる「本物」を追求したという。

 

“それらはすべて、「カッコよくない・つまらない・弱い・経営もダメ」というイメージを払拭し、カッコよくて、どこを切り取っても本物で、スタジアムに来るたびにおもしろさがある、そんな球団になりたいという一つの強い意志から企画され、実現したものです。”

 

 

2.ブランドではなく「ストーリー」をつくる

先にも触れたとおり、「ブランド」を自由自在に操ることはできないが、「ストーリー」はつくることができると著者はいう。

ここでいうストーリーの定義とは、「発信した情報や発売した商品に、共感や感動という価値をつけ加えたもの」であり、もっというと「歴史を丸写ししたものではなく、もっと意図的に、恣意的に、あるいは便宜的につくり出すこと」だという。それは、史実から感動的なストーリーを抜き出して商品(ドラマ)を仕立て上げる大河ドラマのように、「事実の中にある、伝えたい何かを明確にコミュニケーションすること」だと著者は主張する。

 

“一つの事実に由来するストーリーを、それを知ること・見ることにどんな価値があるのか、なぜ今なのかといったことも含めて顧客に感じてもらい、心を揺さぶることができれば、それが捏造でない限り、商品の価値を何倍にも増幅させることが可能になります。”

 

例えばベイスターズでは、「横浜に根付き、横浜と共に歩む」キーメッセージをコミュニケーションの大きな柱としてストーリーを展開している。ベイスターズが「地元密着型のチーム」であるというメッセージを表明していたことで、本書で紹介されている横浜スタジアムのTOB(株式公開買い付け)の記者発表も、「球団が球場を買う」という独立した事象と捉えられるのではなく、これまでと変わらず「横浜という地域に根ざし、他の地方へのフランチャイズ移転は全く考えていない」というメッセージを大きなストーリーの中で打ち出すことができたという。

さらにこの記者会見では、横浜スタジアムの夢と理想を詰め込んだ「ハマスタの未来予想図」をCGでを発表し、過去・現在・未来にわたるストーリー性をより強く印象付けることができた述べている。

 

 

3.想いをカタチにするベイスターズ流「コミュニケーション戦略」

 

PRのつくり方

第3者であるメディアや人が読者や視聴者に向けて伝えるのがPR(Public Relation)。

ここでいうPRとは、それぞれのジャンルに精通した記者やコメンテーターやメディアに「おもしろい」「新しい」「伝える価値がある」と思ってもらうことできてはじめて成立するものだという。

著者はPRの本質について、「お金を払って記事化してもらう、いわゆるペイドパブリシティではなく、ニュース的な価値を見出した第三者に主体的に取り上げてもらうこと」だと主張。

 

本書では例として、業界初の取り組みとなる「オールスターエクスペアリアンス」というイベント開催の記者会見を挙げている。この会見では、球場でのライブ観戦とテレビやネット観戦での視聴以外に新たにオールスターに触れる機会をつくることができ、それによってオールスターの価値向上とプロ野球ひいては野球文化との接触人口拡大というイベントの意義を視覚的に伝えるために、三角形の図を使用しプレゼンテーションを行なったという。

 

“大事なのは、メディア側に「あなたのやっていることをもっと知りたい、そしてその背景や考え方を伝えたい」と思ってもらえること、それだけの価値と実績と新しい何かをまずは世の中につくり出すことから始まります。”

 

 

これによって、一つの球団がオールスターという機会を活用して新たなイベントを開催し、プロ野球に貢献しようとする新しさや価値を生み出したことを伝えたことで、翌日のスポーツ紙各紙で大きく取り上げたと述べている。

 

“会社がやろうとしていることや商品そのものがおもしろいかどうか。新しいかどうか。社会的意義があるかどうか。メディアでの露出は、それさえあれば後からついてくるものなのです。”

 

「経営のしっかりした、革新的・挑戦的で、カッコいい球団」という「なりたい自分」が明確だからこそ、全ての施策が一貫し、ストーリーが構築され、その未来像が第三者にも理解を得やすくなるのだろう。



HPとネット戦略

著者の考えるネット戦略は至ってシンプル。それは、自社のHPに徹底的に力を入れること。顧客データを徹底的に収集し、分析可能にすること。SNSを必要に応じて有効活用すること。

なかでも、HPは自社の「顔」としてブランディングにおいても非常に重要だと主張する。

 

“HPは自由に個性を発揮でき、球団(会社)として伝えたいメッセージを思いのままに伝えられる媒体です。プレゼントの箱を開けたり、憧れの人の家を初めて訪れるときのような思いでHPを開くユーザーにどんな印象を与えられるかを考え、いくらでも工夫できる媒体であり、コミュニケーションのために最大限活用すべきものだと私は考えています。”

 

ベイスターズのHPは、タイル状の画像を配置する構成を採用。もっとも注目して欲しいトピックはトップページに大きな画像を配置するなど、情報に強弱をつけているという。それによって、会社として今、何を伝えたいのかが訪問者に直感的に伝わることを重視ているという。そういった細かい設計やコンテンツ一つひとつが、ブランディングに繋がるという。

 

 

まとめ

著者は、ブランドは一朝一夕にはできないものだといい、トップがブランド・マネージャーとしてしての役割を担い、組織の「なりたい姿」「なるべき姿」を思い描き、それに向けて不断の努力を続けていってはじめて、「顧客の心がブランドをつくっていく」ものだと説いている。

 

“「なりたい自分」に沿って、一気通貫、すべての企業活動が展開されていると、「この会社はこうなりたいんだな」と、世の中で徐々に人格やアイデンティティが形成されていきます。”

 

そうした一連の努力も実って、横浜DeNAベイスターズが発足して5年目に入った頃には、「ベイスターズってブランドだよね」と声を掛けてもらえるようになったという。

 

“「なりたい自分」を明確に持って、ブレずに、一本の筋をきちんと通して、世の中に新しい何かをきちんと提案し、それを伝え、共感してもらい、浸透させていく。それがコミュニケーションであり、マーケティングであり、ブランディングであり、経営なのです。”

 

他にも、徹底したデザインへのこだわりや、強い組織の作り方、マーケティング戦略の考え方など、著者の「強いブランドになるため」の経営哲学が凝縮されている。目から鱗の一冊になること間違いなしだ。

 

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