VISIONの文脈

ONE VISION , BIG FUTURE

人生、100年時代  LIFE SHIFTから考えるこれからの生き方、働き方

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人生100年時代に突入した国、日本

 

“今この文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいた方がいい。”

 

国連の推計によれば、2050年までに、日本の100歳以上人口は100万人を突破する見込みだ。さらに、2007年生まれの日本の子どものうち半数が107歳まで生きる可能性があるというから、「大長寿化時代」に突入したと言っても過言ではないだろう。

長寿化というと、高齢化社会による医療や年金問題など様々な課題が目に浮かぶ。しかし、このような長寿化を負の厄災と見なすのではなく、恩恵の部分に目を向け、個人や家族、企業、社会全体の得る「恩恵をいかにして最大化するか」をテーマに論じられているのが本書、LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

 

著者は未来の働き方を描いたベストセラー『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』などの著作を持つ、リンダ・グラットン。長寿化によって、従来型の「教育→仕事→引退」といった3ステージの人生設計を否定し、「人生100年時代」の新しい生き方と働き方を提唱する。

 

人類が迎えた未曾有の「大長寿化時代」ではどういった変化が訪れるのか?今回は、本書が唱える「新しい働き方」の考え方を紹介する。読者の戦略的人生設計のヒントになれば幸いだ。

 

過去のロールモデルは役に立たない

20世紀には「教育のステージ」「仕事のステージ」「引退のステージ」という、人生を3つのステージに分ける考え方が定着した。

しかし、寿命が延びても引退年齢が変わらなければ、大きな問題が生じるという。なぜなら、ほとんどの人は「長い引退生活を送るために十分な資金を確保できない」からだ。この問題を解決しようと思えば、働く年数を長くするか、少ない老後資金で妥協するかのどちらかであり、いずれの選択肢も魅力的とは言い難く、これでは長寿が厄災に思えても仕方ないと著者。

しかし、長寿を厄災にしない方法はあるという。それは、3ステージの人生の縛りから自由になり、もっと柔軟に、もっと自分らしい生き方を選ぶ道。例えば、仕事を中断したり、転身を重ねたりしながら、生涯を通じてさまざまなキャリアを経験する、そんなマルチステージの人生を実践することが重要であると主張する。

 

“私たちの人生は、これまでになく長くなる。私たちは、人生のさまざまな決定の基準にしているロールモデル(生き方のお手本となる人物)より長く生きるようになるのだ。それにともなって変わることは多い。変化はすでに始まっている。あなたは、その変化に向けて準備し、適切に準備しなくてはならない。本書はその手助けをするために書いた本だ。”

 

 

100年ライフで何が変わるのか?

「大長寿化時代」に、人生のあり方は大きく変わると言う。では、具体的にどのように変わるのか?著者の予測はこうだ。

 

70代、さらには80代まで働く

100年ライフでは60代で引退といった過去(現在)の「時間の概念」はなくなり、「70代、80代」まで働くことが予想される。

 

新しい職種とスキルが登場する

これからの数十年で、労働市場に存在する職種は大きく入れ替わる。オフィス労働者のほぼ全ての職がロボットと人工知能によって代替されるか補完され、事務・管理業務、セールスとマーケティング、マネジメントなど、あらゆる業務がその影響を受ける。労働市場が急速に変化する中で、70代、80代まで働くようになれば、手持ちの知識に磨きをかけるだけでは最後まで生産性を保てない。時間を取って、学び直しとスキルの再習得に投資する必要がある。

 

変化が当たり前になる

マルチステージの人生が普通になれば、人生で多くの移行を経験することになる。「変身」のスキルを習得するためには、柔軟性を持ち、新しい知識を獲得し、新しい思考様式を模索し、新しい視点で世界を見て、力の所在の変化に対応し、ときには古い友人を手放して新しい人的ネットワークを築く必要がある。

 

「一斉行進」が終わる

マルチステージの人生では、新しい人生の節目と転機が出現し、どのステージをどの順番で経験するかという選択肢が大きく広がるステージを経る順番は、3ステージの人生論理でもはや決まらない。一人ひとりの嗜好と状況によって変わっていく。

 

選択肢を持っておくことの価値が増す

人生が長くなれば、変化を経験する機会が増えるので、選択肢を持っておくことがよりいっそう重要になる。これからの世代(本書では18〜30歳)は、結婚や子づくり、住宅や自動車の購入をどんどん先送りしていくことで、選択肢を残そうする。

 

家庭と仕事の関係が変わる

平均寿命が延びれば、夫婦の関係も変わる。まず、夫婦の両方に所得があるほうが家計や貯蓄の面で有利なため、夫婦が二人とも職を持つ家庭が増えるだろう。加えて、二人ともマルチステージの人生を実践する場合は、夫婦のいずれかが新しいステージに移行する際に互いの役割を調整し、人生のさまざまな時点でサポートし合うことが必要。3ステージの人生が過去のものになれば、男性たちも人生の新しいステージを実践し、柔軟な働き方とキャリアを求めるようになるだろう。

 

実験が活発になる

いま生きている私たちは、長く生きることを前提に人生の計画を立てなくてはならない。若い人ほど、実験をおこないながら新しい生き方を目指すこととなり、大勢の開拓者が生まれる可能性がある。

 

 

これが「100年ライフ」の新しい働き方

長寿化がもたらす恩恵は、「時間」という贈り物であり、人生が長くなれば目的意識を持って有意義な人生を形づくるチャンスが生まれるという。

 

“時間がたっぷりあると思えば、立派な大聖堂を建てられるが、四半期単位でものを考えれば、醜悪なショッピングモールができあがる。”

 

著者はバイオリニストのスティーブン・ナマハノビッチの言葉を引き合いに出し、長寿化による恩恵を「人がショッピングモールではなく、大聖堂を建てることを可能にするものだ」と主張。時間をかけて自らのミッションを見つけ、達成していくべきだと説いている。

そして、本書では100年ライフを生きる我々が経験するであろう、3つの新しいステージとその間の移行期間について論じており、これらのステージをその時々の状況によって経験していくことで、深い「自己認識」を促し、より充実した人生を歩むことができるのだという。

 

 

エクスプローラー

エクスプローラーは、一ヶ所に腰を落ち着けるのではなく、身軽に、そして俊敏に動き続けるステージ。身軽でいるために、金銭面の制約は最小限に抑えることが特徴。

 このステージでは旅をすることにより、世界と自分について新しい発見をしていく。興味深いのは、このステージには年齢は関係ないものの、とりわけ適した時期が三つあるという。それは、18〜30歳ぐらいの時期、40代半ばの時期、70〜80代の時期。これらの時期は人生の転機になりやすく、エクスプローラーのステージを経験することで明確な効果を生みやすいのだという。これによって現状を再確認し、自分の持っている選択肢について理解を深め、自らの信念と価値観について深く考える時間にできると著者は主張する。

 

インディペンデントプロデューサー

インディペンデントプロデューサー(本書では独立生産者とも呼んでいる)とは、職を探すステージではなく、自分の職を生み出すステージ。

 起業家のように永続的なビジネスを生み出すのとは異なり、あくまで一時的にビジネスを行うことが特徴だ。こうした生き方を目指す人にとっては、企業体を築き、金銭的資産を蓄えることより、「組織に雇われずに独立した立場で生産的な活動に携わる」ためにまとまった時間を費やすことに大きな意味があり、製品やサービスの開発などを主体とした活動を行うのだと述べている。このステージは素早い実験を重ねて、自分にとって何が有効で、何が上手くいかないのかを学んでいく時期であり、人生のどの段階にいる人でも実践できるという。

 

ポートフォリオワーカー

ポートフォリオワーカーとは、異なる種類の多様な活動を同時におこなうステージ。

このステージは生産活動に携わる期間のいつでも実践できるが、とりわけ魅力を感じるのは、すでに人生の土台を築いた中高年の人たちだと主張する。長く生きていると、どうしても過去の繰り返しになり、退屈を感じかねないからだ。このステージを生きる人は、3つの側面のバランスが取れたポートフォリオを築くようになるという。それは、支出をまかない貯蓄を増やす活動、過去の経歴と繋がりがあり評判とスキル、知的刺激を維持できるパートタイムの活動、新しいことを学びやり甲斐を感じられる活動になる。

 

移行期間

移行期間とは、ある特定のスキルを習得する準備期間となるステージ。

エネルギーを再充塡して活力資産を増やしたり、自分を再創造して生産性資産に磨きをかける。このステージは、ありうる自己像が現状の自分の姿より魅力的に見えはじめることが出発点となり、そのギャップを認識し、埋めていく期間と言える。

 

 

著者は、ここで紹介した「エクスプローラー」「インディペンデントプロデューサー」「ポートフォリオワーカー」「移行期間」に「会社勤め」を加えた6つのステージを中心に「100年ライフ」における時間を組み立てることがこれからの時代、普通のことになるのだと述べている。

 

 

“やがて、これらの新しいステージや移行期間は、特殊なものではなく、ごく普通の生き方になる。人生の様々な段階で、誰もが実践できるものと考えられるようになるのだ。それどころか、もっと実験がおこなわれ、人生の道筋がもっと多く見いだされて、もっと多くの新しいステージが出現しても不思議ではない。”

 

 

1998年生まれの「ジェーン」の生き方

本書が面白いところは、架空の人物を用いて、「未来の生き方のシナリオ」を描いているところだ。具体的には、「1945年生まれのジャック」「1971年生まれのジミー」「1998年生まれのジェーン」の3人の未来のシナリオにも多くのページが割かれている。

 例えば本書に登場する、ジェーンの「100年ライフ」をざっくりと説明するとこうなる。

 

2019年、20代を迎えるジェーンは大学を卒業後(教育ステージ終了後)、旅に出る。つまり、「エクスプローラー」としてスタートした後、「インディペンデントプロデューサー」→「会社勤め」→「移行期間」→「会社勤め」→「移行期間」→2070年「ポートフォリオワーカー」そして「引退」と、とても充実した「100年ライフ」を過ごした。

 

 

ジェーンの場合は、自分が100年以上生きる可能性が高いことを前提に人生の選択を行なった。いますぐに人生の針路について大きな決断を下すことを避け、様々な選択肢を模索する中で、「変身」を繰り返し、最終的に「あるべき自己像」を達成していったというストーリーだ。

他にも、「1945年生まれのジャック」「1971年生まれのジミー」のシナリオを紹介されているので、この点を詳しく知りたい方は、ぜひ本書を手に取って見てほしい。それぞれの世代の働き方が比較されているので従来型の「3ステージの働き方」から著者が提唱する「100年ライフ」の働き方の違いまでが明確に分かるだろう。

 

 

まとめ

「自分がどのような人間か、自分の人生をどのように組み立てたいか、自分のアイデンティティと価値観を人生にどのように反映させるかを一人ひとり考えなくてはならない」と著者が問いかけているように、ここまで紹介した新しいライフステージを通して、「誰も」が自分のミッションを見つけ、それを遂行していくべき時代が到来するのだろう。

本書では、他にもロボットと人工知能が普及した雇用の未来」についてや「新しいお金の考え方」「時間の使い方」から「未来の人間関係」についてまで、人生のあらゆる場面を包括した上で、新しい考え方を提示している。ページの都合上、ここで紹介出来ないのが惜しいくらいだ。

なお、2013年に日本でもビジネス書大賞を受賞したワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉では、近い未来である「2025年の働き方」について論じられているので、読んでいない方は、合わせて読むべき良書だ。

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)は、変化の真っ只中にいる今、「長寿化」という意外にも見過ごさせれがちなテーマから、新しい働きを提案している。非常に示唆に富んでいるだけでなく、戦略的人生設計の指針となりうる、ビジネスパーソンのみならず、すべての人の必読書となるだろう。

 

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