VISIONの文脈

ONE VISION , BIG FUTURE

人生100年時代は“複数の本業を持つ”時代。次世代の働き方「マルチプル・ワーカー」とは?

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「人生100年時代」。人類が未だ経験したことのない長寿化時代を迎え、人々の働き方は多様化は進む一方。さらに「副業解禁元年」とも言われる2018年。

今までタブー視されていた「副業」をよしとする企業も現れはじめ、その機運が高まっている。そんな時代に、新しい副業の形として「複業」という言葉に注目が集まっている。

「複業」とはいったい何なのか? その答えを探るため、「マルチプル・ワーカー 「複業」の時代」を上梓された、早稲田大学ビジネススクール教授、山田英夫先生にお話を伺った。

※この記事はKOSHIGAYAZINEからの転載です。

 

・プロフィール

山田 英夫(やまだ ひでお)

 早稲田大学ビジネススクール教授。1955年生まれ。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)後、三菱総合研究所に入社 し、大企業のコンサルティングに従事。その後、早稲田大学に移籍し現在に至る。専門は競争戦略、ビジネスモデル。2018年『マルチプル・ワーカー 「複業」の時代』を上梓。

 

マルチプルワーカーとは、複数の「本業」を平行する働き方

—「マルチプルワーカー」。聞き慣れない言葉ですが、意味を教えてください。

一般的に言われるお小遣い稼ぎのようなイメージの「副業(side jobs)」とは異なり、「本業と同等に複数の仕事をする」という意味での「複業(Multiple jobs)」を実践する人を指しています。「パラレル・ワーカー」や「ポートフォリオ・ワーカー」などもそれに当たるでしょう。

—ほう。「マルチプルワーカー」を上梓されたきっかけはなんでしょうか。

この本を上梓したきっかけは、2つの問題意識からです。1つ目が「人は会社に縛れられるだけの人生でいいのか」ということ。定年後の時間も会社人生並みに長くなる時代、これからは会社ありきの生き方ではなく、「会社に縛られない生き方」を前提として人生設計を考えていく必要があると思いました。

2つ目が「働き方は政府ではなく、個人が決めていくもの」ということです。政府主導で働き方改革の号令が出されても、個人の意識は大きく変わっていません。働き方とは個人がその環境に応じて、主体的に決めてるべきものだと思ったからです。

—「副業」がクローズアップされるようになった背景にはどんなことが考えられますか。

大きく2つの点が挙げられます。それは「人手不足」と「賃上げの限界」です。

「人手不足」の解決策として、外国人労働者や高齢者の活用などが行われてきました。その次なる一手として、会社員の空いた時間を着目し、「副業」という形で関わってもらうことで人手不足の解消を図ろうという発想に至ったのではないでしょうか。

2つ目の「賃上げの限界」ですが、日本経済が低成長にある中、企業側は給与アップを図ることは簡単ではありません。とはいえ、従業員側の家計が苦しくなるのも目に見える。そこで、家計を支える収入源の新たな選択肢の1つとして「他社での副業」を認めようと考えたのだと推測しています。

ただ、政府の推進する「副業」とは働き手の意志などは関係なく、あくまで「量的」な不足を補うものだと考えています。つまり、自分で事業を起こすタイプの複業ではない。政府が言う「副業」は今までの副業の延長のように思います。

 

「副業」と「複業」の違いとは?

―本書のタイトルでは、「副業」でなく「複業」という言葉をお使いですが、これはなぜですか?

「複業」こそ、人生100時代を豊かにする働き方だと考えたからです。

「副業(Side job)」には、「メインとする本業があり、空いた時間を使ってお小遣い稼ぎとしてのサブ的な仕事する」という意味を含んでいますが、先述の通り「複業(Multiple jobs)」には本業と主従関係がなく「どれもが本業」と呼べるような仕事を指します。

まずは定義からご説明します。私は本書の中で、ケイバビリティ(能力)や収入の軸でフクギョウを4つに分類しています。

出典:山田英夫 「マルチプル・ワーカー 「複業」の時代:働き方の新たな選択肢 (単行本)」P.28

 

・「伏業」…内職やアルバイト、ネットで不用品を売るなど極めて低価格の仕事

・「副業」…昔から言われてきた仕事で、コンビニなどの店員、警備員や肉体労働など「伏業」に比べて収入は高いもの

・「幅業」…ボランティアやNPO活動など、多くの収入は期待できないものの、人間の幅やスキルの幅を広げるもの

・「複業」…起業など収入もスキルの幅も広がるもの

 

これまで一般的であった「副業」は、それなりのお金は貰えるが、代替可能性が高いもの。つまり、コンビニバイトや内職などが挙げられます。一方で、「複業」は、オリジナリティが求められるため代替可能性が低く、報酬も高いことが特徴です。例えば、会社員の傍ら、プロカメラマンや小説家、最近ならユーチューバーとして活動する、というのも「複業」に当たるでしょう。

例えば、副業でするコンビニ店員の仕事は「時給900円」かもしれませんが、他に代わる人がいなければ複業で「時給9万円」で講師業のオファーが来るかもしれません。

私は、会社員時代に「複業」を細々とはじめておき、定年後にそれを100%にしていくことを推奨しています。

—複業以外はあまり意味がないのしょうか?

もちろん、「複業」以外の「フクギョウ」を否定している訳ではありません。「必要なお金を得るため」に副業をする人もいるからです。会社の給与だけでは生活費が足りない人や、住宅ローンを払うため副業で補う必要がある人など、それぞれに状況がありますからね。

ただ、会社の規則は守らないといけないでしょう。副業禁止の会社でやってしまったら、懲戒解雇になる可能性もあります。就業規則はきちんと確認した方がいいでしょうね。

 

「副(複)業」は会社にも個人にもメリットをもたらす

—会社員が「副(複)業」をするメリットは何でしょうか?

「会社に支配されないキャリアの選択肢」を与えてくれるということです。それによって、逆説的ではありますが本業にもいい影響をもたらすと思っています。

大企業の中では「賢い人は新規事業に手を挙げない」と言われている所もあるほどで、チャレンジが失敗に終わると「社内」での先のキャリアが絶たれる心配があります。しかし、会社以外にも食い扶持があれば、極端な話、クビになっても構わない。だから会社の仕事でも失敗を恐れず勝負を賭けることができます。

つまり副業をすることは、「会社と対等なポジションを築くための武器」にもなるのです。それを手にしてしまえば、いちいち会社の上司や同僚の顔色を伺わなくても良くなるのです。

一方で、従業員に「副業」を許可することは、会社にとってもメリットがあります。それは「少ない費用で優秀な人材を集められる」ことです。優秀な人を集めるには、それなりに高額な給与を支払わなければなりませんが、それは容易いことではありません。

そこで、例えば「週3日勤務、副(複)業OK」という形で「自由」を保証してあげることで、フルコミットで雇うには難しい、優秀な人材を少ないコストで獲得することが可能になります。

― —般論として、副業する余裕があるなら、本業に集中しろと言う風潮がありますが……

それには疑問を持っています。2つ以上のことを並行して上手くやれる人もたくさんいますからね。

アメリカでは「夏はアメフト、冬はスキー」と競技を跨いでプレーすることは当たり前です。前回の平昌で行われて冬季オリンピックでも、大回転をやる人とスノボーをやる人、同じ人で両方金メダルをとった。ああいうのは素晴らしい。日本じゃ考えられないでしょ。メジャーリーグで「二刀流」として活躍する大谷翔平選手は、普通の高校に行っていたら監督に「ピッチャーかバッターか1つに絞れ」と怒られていたかもしれません。

でも、天は二物を、あるのですよ。パナソニックにもジャズピアニストの役員がいるのですよね。その人はCDを出しているわけですよ。パナソニックの社員でCDを出すって、普通、考えられないじゃないですか。でも、そういうのを、まずやれるということと、そういうことを認めてきた一個上の人がいるわけじゃないですか?それが、すごいなと思ってね。

副業って、その人だけじゃだめなんです。その人の一個上とか、もっと上がOKしない限り、潰しにかかるから。ここで書いたのは、オーナー系企業が多いんです。サイボウズとか、エンファクトリーとかね。

大企業でも、ロート製薬とか、カゴメとかは、オーナー系なんですよ。オーナー系企業というのは、社長が良いと言えば良いんでしょ?とだから、ロート製薬の会長さんは、前からこういうのを悶々として思っていて。もっと自由な働き方を、と。副業を解禁したんです。

日本には、本業一本という風潮は根強いですが、本業に取り組みつつ自分の才能を生かして、複数の仕事をすることも可能だと思っています。

 

人生100年時代の「幸せな副業」とは?

—副業や複業が上手くいくために必要な要素はありますか?

山田:はい。この本のひとつの結論でもあるのですが、それは「Will×Can×Environment」といい、これら3つの要素が1つでも欠けると、継続が難しいと考えられます。

 

<Will×Can×Environmentとは?>

Will:これをやりたいという「強い意志」。「will」が乏しいと、何らかの困難が生じた際に頓挫しやすい傾向にある。 

Can:「能力と体力」。副業を行うのは主に平日夜や休日のため想像以上に体力が求められる。副業による疲労で本業の生産性を低下させてしまっては、本末転倒となるため、高い生産性や、タイムマネジメント能力が求められる。

Environment:「副業を許容する環境」があるか。これは、「家庭と会社」と両方を指す。会社であれば、上司や同僚が副業に対して理解があるか。家庭なら、パートナーに理解があるか。など。

 

―複(副)業を始めたいという人にアドバイスはありますか。 

まず、「Will」を見つけることから始めてみてください。それは、そば打ちでも、テニスのコーチでも良いと思います。そして、「やりたい」という気持ちがあるものなら、何でもやってみて欲しいですね。

また、マルチプルワーカーを目指す人にとって「会社」は、「人生の滑走路」でもあると思います。Willが見つかったとしても、複業を軌道に乗せるまでには3年や5年など長い準備期間が要りますし、成功する保証もありません。

その意味で、給与という安定収入を得ながら、複業の実験期間を与えてくれる会社は最高の環境です。うまく行かなければ、滑走路の途中で降りてもいいですし、うまくいく確信が持てたら、複(副)業で食うという方法も見えてくるでしょうから。

会社員の副業は「転換社債」に喩えられると思っていて、メリットも大きいと思います。転換社債というのは、会社の株が上がったら社債を株に転換して儲ける。上がらなければ社債として保持し利息を貰う仕組みの有価証券のことです。

同じ仕組みで、会社員であればお給料は貰えるわけです。また、副業で大化けすれば、給与とは別に収入がボンと増えますよね。そういう意味で、会社員の副業は、安定収入を得ながら、副業が上手くいくかの実験期間でもあり、人生の滑走路でもあると思うんです。その滑走路が長ければ長いほど、ジャンボは大きく飛べるのです。

 

―最後に、先生がお考えになる「幸せな複業」について教えてください。 

前提として、「複(副)業をすること=幸せ」には直結しないと思っていて、「選択肢のある人生を送ることが幸せ」だと考えています。

幸せ度合って、結局人生の中に、こういう選択肢がたくさんある状態なのか、で計れる気もします。要するに、1個しかない人は、幸せかどうか考えるまでもなく、そこに行くしかないじゃないですか。でも、10個くらい選択肢があって。例えば、あなたは好きな国に移住して良いですよと言われて、オーストラリアが良いかな、ニュージーランドが良いかなと選べるというのは、ありがたいことで。あなたは北極にしか行けませんと言われたら、あまり幸せじゃないじゃないですか。

だから、選択肢があるということ自体が幸せだと思うのです。今の時代は、個人も選びたいし。洋服だってそうじゃないですか。いろいろ選んだ末に、これを選ぶ。あなたはユニクロしか着ちゃダメですと言われたら、さみしいじゃないですか。そういう意味で、選択肢のあるような人生を送れるためには、複業というのは、それを後押ししてくれるのかなと思うんです。

副業=幸せ、じゃなくて。選択肢のある人生がきっと幸せを生んでくれるとすると。その一つの武器になるんじゃないか、手段になるんじゃないか、と。ですから、海外移住しても仕事ができるし、テニスのコーチとしても生きていけるなど、複数の選択肢があれば、自分の意思で人生を選んでいくことができます。

それは、「本意ではない仕事」を選ばざるを得ない人生より、よっぽど幸せなことでしょう。ですから「複(副)業」は、人生の選択肢を増やす手段のひとつと考えて欲しいと思います。

そういった意味で、「選択肢のある人生を送ること」に繋がる活動であれば、それこそが「幸せな複業」と呼べるのではないでしょうか。

 

マルチプル・ワーカー 「複業」の時代:働き方の新たな選択肢 (単行本)

マルチプル・ワーカー 「複業」の時代:働き方の新たな選択肢 (単行本)

 

 

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